販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『ビッグイシュー韓国版』販売者 キム・ソンウ
自分の残りの人生はボーナスみたいなもの
これからは助けが必要な人のために生きていきたい
キム・ソンウは毎日『ビッグイシュー韓国版』を販売するため、地下鉄「景福宮」駅2番出口にやって来る。仕事に邁進し、信心深いソンウだが、日々の暮らしは厳しい。コロナ禍によって世界中のストリートペーパーが打撃を受けたが、ソンウも例外ではない。
「2022年の韓国の最低賃金は9160ウォン(約916円)ですが、数時間立っても最低賃金に満たない時もあります。私ももう79歳になりますから、そんな時はつらいですね」「ビッグイシューの販売が最後の仕事になるかもしれませんね」と語る。
健康には恵まれており、朝6時には起きて、カトリック信者の彼は祈りとともに1日を始める。向かう先は仕事場だ。
「毎日夜10時頃まで販売しています。日曜日も旧正月も、秋夕(※)の時も。仕事に邁進するのが好きなんです。ちょっと時代遅れかもしれませんが。何をするにしても一所懸命しなければ、道は開かれませんから」
以前していた仕事についても、饒舌に話す。「スニーカーの材料となるゴムを作る工場が釜山にあったんです。油圧と空気圧をかけてスニーカーの前部にゴムを付ける機械があるんですが、その機械を作って販売していたんですよ。かなり大きなビジネスでしたね」
そして、自身がホームレス状態に陥った経緯をこう語る。「自分自身の失敗もありましたが、悪い意図を持って近づいてくる人たちの策略にはまった面もあります。機械に発注がかかり納品したにもかかわらず、代金が支払われないことが数回続きました。そのために多くの負債を抱え、ほどなくしてホームレス状態に陥ってしまいました」
再起をかけて仕事を探したが、何も見つからなかった。「路上生活をしながら、就職活動もしましたよ。でも、一銭もない状態で仕事を見つけることがいかに困難であるかを知っただけでした。そして、お金がなくても始めることのできる仕事が、ビッグイシューの販売だったわけです」
現在は、往来の激しい景福宮駅で販売する。多くのギャラリーが立ち並び、アート街・ソチョンも程近い。「先日はスペイン人写真家Yosigoの展示があり、彼の作品が『ビッグイシュー韓国版』の表紙を飾ったこともあってたくさん売れましたよ。『こんな幸運が私にも訪れるんだ』と思いましたね。次はもっと仕入れなくては、と思いました。こうやって経験から学んでいくんです」
多くの苦難を経験してきたソンウ。今では自分の残りの人生はボーナスみたいなものだと感じている。
「今まで自分のために生きてきましたから、これからは人のために生きていきたいですね。先日も、脳死の際には臓器提供する署名をしてきました。世界には多くの助けを必要としている人がいますから、そうした方を助けたいんです」
『ビッグイシュー 韓国版』
1冊の値段/7000ウォン(そのうち3500ウォンが販売者の収入に)
発行頻度/隔週
販売場所/ソウル、プサン
Text: An Deok-hee, The Big Issue Korea/INSP/編集部
Photo: Kim Sang-joon
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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